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The First Turnabout
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Transcript (JP)
Note: This Japanese transcript was created from Gyakuten Saiban: Yomigaeru Gyakuten for the Nintendo DS. For a transcript of this episode in English, see The First Turnabout - Transcript.
Case1art
第一話
はじめての逆転

‥‥はあ‥‥はあ‥‥

‥‥くそっ! なんでオレがこんな目に‥‥

‥‥つかまりたくねえ‥‥こんなことで‥‥

誰か‥‥誰かがやったことにするんだ‥‥!

‥‥そうだ、あいつだ‥‥

あいつがやったことにすれば‥‥



8月3日 午前9時47分
地方裁判所 被告人第2控え室

ナルホド:
(うう‥‥。キンチョーするなあ‥‥)

チヒロ:
‥‥なるほどくん!

ナルホド:
あ、しょ、所長。

チヒロ:
ふう。なんとか、間にあったわね。どうかしら? 初めての法廷は。

ナルホド:
こ、こんなにドキドキするの、小学校の学級裁判のとき以来です。

チヒロ:
‥‥それはそれは。ずいぶん、ごぶさたしてるのね。

ナルホド:
え、ええ、まあ。あの‥‥所長。今日は、すみません。いそがしいのに‥‥。

チヒロ:
ううん、かまわないわ。カワイイ部下の初舞台だもの。‥‥それにしても。初めての法廷で殺人事件をあつかうなんて、すごい度胸ね。感心するわ。あなたにも、あなたの依頼人にも。

ナルホド:
は、はい‥‥。‥‥借りがあるんですよ。ヤツには。

チヒロ:
え‥‥。あの、依頼人の方に?

ナルホド:
ええ。‥‥実は、ぼくがこうして弁護士になったのも、ある意味、ヤツのおかげ、みたいなところがあるんです。

チヒロ:
‥‥それ、初耳ね。

ナルホド:
‥‥ぼく、あいつのチカラになってやりたいんです! 助けてやりたい‥‥

???:
(オシマイだぁ! もう、何もかもオシマイなんだぁ!)

チヒロ:
‥‥‥‥あそこで叫んでるの、あなたの依頼人じゃない‥‥?

ナルホド:
そ、そうですね。

???:
(‥‥死ぬ! 死ぬぞぉ! オレはもう、死んでやるんだぁぁ!)

チヒロ:
‥‥死にたがってるわよ。

ナルホド:
はあ。

ヤハリ:
成歩堂ぉ!

ナルホド:
よ、よう、矢張。

ヤハリ:
有罪だぁ! オレを有罪にしてくれよぉ! 死刑でもなんでもカッくらって、サッパリ死なせてくれぇ!

ナルホド:
ど、どうしたんだよ、矢張!

ヤハリ:
ダメだよ! やっぱりオレ、ダメなんだ! あの女がいない人生なんて‥‥死んだ方がマシだぁ! 誰が‥‥いったい誰が、カノジョを‥‥! 教えてくれよぉぉぉ! 成歩堂ぉぉぉ‥‥!

ナルホド:
(“カノジョ”を殺害した犯人、か‥‥新聞に書いてあるのは、お前の名前なんだよな‥‥)


ナルホド:
ぼくの名前は成歩堂 龍一(なるほどうりゅういち)。3ヶ月前に弁護士になったばかり。今日は初めての法廷だ。さて。今回の事件は、いたってシンプル。マンションの一室で、若い女性が殺害された。逮捕されたのは、不運にも彼女とつきあっていた男。矢張 政志(やはりまさし)。‥‥小学校からの大親友だ。“事件のカゲに、ヤッパリ矢張”と言われつづけて23年。なぜか、いつでもキツいトラブルに巻き込まれている。‥‥ただ1つ言えることは、悪いのは、こいつじゃない。‥‥ただひたすら、が悪いだけ。‥‥いいヤツだってことは、誰よりも、このぼくが知っている。そして何より、ぼくはこいつに大きな借りがある。助けてやるんだ‥‥ゼッタイに!



8月3日 午前10時
地方裁判所 第2法廷

サイバンカン:
これより、矢張 政志の法廷を開廷します。

アウチ:
検察側、準備完了しております。

ナルホド:
べ、弁護側も準備完了しています。

サイバンカン:
‥‥‥‥。成歩堂くん。きみはたしか、今日が初めての法廷だったかな?

ナルホド:
は、はい‥‥。‥‥キンチョーしてます‥‥。

サイバンカン:
依頼人が有罪になるか、無罪になるかは、弁護士にかかっています。弁護土であるきみが、そんなにキンチョーしていては困りますね。

ナルホド:
‥‥すみません。

サイバンカン:
‥‥‥‥。‥‥そうですね。裁判を進める前に、本当に“準備完了”しているか、たしかめさせてもらいましょうか。

ナルホド:
え、ええ‥‥。(うわあ、アタマの中がマッシロになってきたぞ‥‥)

サイバンカン:
カンタンな質問をするから、答えてください。まず、この事件の被告人の名前を。‥‥言ってみなさい。

ナルホド:
ヒコクニン‥‥それは、まあ、矢張くんのことですよね。

サイバンカン:
そのとおり。そんな感じで、落ち着いて答えればよろしい。じゃあ、次の質問です。今日の裁判は殺人事件ですが、被害者の名前を教えてください。

ナルホド:
(‥‥ふう。それならわかるぞ。あれだけ調書を読んだからな‥‥って、あれ? ど‥‥ど忘れしちまったぞ! 名前、なんだっけ!)

チヒロ:
な、なるほどくん! あ、あ、あ、あなたって人は‥‥被害者の名前も知らないの?

ナルホド:
そ、そんなフケ、ないじゃないですか。ちょっと、忘れちゃっただけです。

チヒロ:
‥‥な、なんか、アタマがいたくなってきたわ‥‥。事件のことは、《法廷記録》を見れば、わかります! Rボタンで、好きなときに見ることができるから、いつもチェックしておいてね。‥‥おねがいだから。

サイバンカン:
答えてもらいましょう。この事件の被害者の名前は?

ナルホド:
えーと。被害者の名前は、高日 美佳さんです。

サイバンカン:
‥‥よろしい。では、彼女はどうやって殺害されたか? 被害者の死因は‥‥?

ナルホド:
鈍器で1発、ガツンと殴られて‥‥。

サイバンカン:
そのとおり。じゃあ、質問はこれぐらいにして、そろそろ審理を始めましょう。きみも、だいぶ落ち着いてきたようですからね。

ナルホド:
‥‥はい。(そうでもないけど)

サイバンカン:
‥‥さて。ちょっといいですか? 亜内検事。

アウチ:
なんでしょうか、裁判長。

サイバンカン:
今、成歩堂くんが言ったとおり、被害者は鈍器で殴られています。その“鈍器”ですが、具体的には、どういう‥‥?

アウチ:
凶器は、この《考える人》の置物です。死体のそばに転がっておりました。

サイバンカン:
‥‥ふむう。証拠品として受理しましょう。

証拠品《置物》のデータを法廷記録にファイルした。

チヒロ:
なるほどくん。裁判が進むと、こんなふうに《証拠品》が提出されていくの。《証拠品》のデータは、これからあなたの武器になるから、Rボタンで、法廷記録をチェックしておいた方がいいわよ。

サイバンカン:
では、亜内検事。証人を呼んでください。

アウチ:
まず、被告人・矢張くんの話を聞きたいと思います。

ナルホド:
あの、所長。ぼくは、どうすれば‥‥?

チヒロ:
今は、依頼人を助けるための《情報》を聞き逃さないこと。反撃のチャンスは、あとでかならず、やってくるわ。彼が、よけいなことを言わないよう、祈りましょう。

ナルホド:
(‥‥心配だ。矢張のヤツ、すぐにコーフンするからな‥‥)


アウチ:
さて。矢張くん。キミは最近、被害者にフラれたそうですね?

ヤハリ:
なんだとコラ! 今世紀最高のカップルに向かってなんてことを!

ナルホド:
(い‥‥いきなりかよ‥‥)

ヤハリ:
ただ最近、電話に出なかったり、会おうとしても断られただけだ! ナメんなぁ!

アウチ:
世間では、そういう状況を“フラれた”と呼んでいます。実際、彼女はきみをほったらかして遊びまわっていた。殺害される前の日も、海外旅行から帰ったばかりだったんだよ。

ヤハリ:
なんだとぉ! そんなのウソだぁ! オレァ、信じねえぞぉ!

アウチ:
裁判長。被害者のパスポートです。亡くなる前日まで、彼女はニューヨークにいたようですね。

証拠品《パスポート》のデータを法廷記録にファイルした。

サイバンカン:
ふむう。たしかに帰国の日付は、死亡の前日、だ‥‥。

ヤハリ:
‥‥そんな‥‥。

アウチ:
彼女はモデルでしたが、収入は大したことはありません。どうやら彼女には、“パパ”がたくさんいたようです。

ヤハリ:
‥‥パパ?

アウチ:
お小づかいをくれるおじさんたちのことです。彼女は、彼らから金を“援助”してもらって、遊んでいたワケだ。

ヤハリ:
なんだって‥‥

アウチ:
‥‥被害者の高日 美佳はそういう人間だった。きみに彼女についてどう思うかな? 矢張くん。

チヒロ:
‥‥なるほどくん。この質問には、答えさせない方がいいかもしらないわね‥‥。

ナルホド:
(‥‥矢張のことだ。トンでもないことを口走るかも‥‥‥‥どうしよう?)

ヤハリ:

死んでやる! もう、死んでやるぞお!

天国で、あのオンナを問いつめてやるんだあ!


サイバンカン:
‥‥では、審理をつづけましょうか。

アウチ:
とにかく、被告人の動機はおわかりいただけたと思います。

サイバンカン:
‥‥とてもよく。

ナルホド:
(‥‥とほほ‥‥)

アウチ:
じゃあ、次の質問に移りましょう。事件があった日、きみは彼女の部屋の行かなかったかな?

ヤハリ:
‥‥‥‥!

アウチ:
どうなのかな?

ヤハリ:
‥‥え、な、何がどうなんだよ!

ナルホド:
(あのようすじゃ、あいつ、部屋に行ってるな‥‥どうしよう‥‥)

サイバンカン:
‥‥それは話が早い。どんな証人ですか?

アウチ:
死体の発見者です。彼は、死体を発見する直前に、殺人現場から逃げていく被告人・矢張くんを目撃しているのです!

サイバンカン:
静粛に! 静粛に! ‥‥亜内検事。その証人を呼んでください!

アウチ:
ははっ。

ナルホド:
(と、とんでもないことになってきたぞ‥‥)

アウチ:
事件当日、現場のマンションで新聞の勧誘をしていた、山野 星雄(やまのほしお)さんを入廷させてください!


アウチ:
山野さん。新聞勧誘員をしておられる‥‥?

ヤマノ:
‥‥は。は。さようでございます、はい。

サイバンカン:
では、さっそく《証言》をしていただきましょう。あなたが事件当日、見たことを話してください。



証言開始
~事件の当日、目撃したこと~

ヤマノ:
勧誘しておりましたら、とある部屋から、男が出てきたんです。
男はあわてていて、ドアを半開きにしたまま、行ってしまいました。
おかしいと思いまして、私、部屋をのぞいてみたんでございます。
すると、なんと、女の人が死んでいるじゃございませんか!
私、腰が抜けてしまいまして。怖くて、部屋に入れませんでした。
私、すぐに警察を呼ぼうと思ったんでございます。
でも、彼女の部屋の電話は通じませんでしたので、
それで、近くの公衆電話から通報いたしました。
時間はハッキリ覚えております。お昼すぎの、2時でした。
逃げた男は、間違いなく、そこの被告人のカタでございます。


サイバンカン:
ふむう‥‥。

ナルホド:
(矢張‥‥! なんで正直に話してくれなかったんだ! こんなにハッキリ見られてちゃ、弁護なんか、しようがない!)

サイバンカン:
ところで、現場にあった電話はなぜ通じなかったのかな?

アウチ:
はい。事件があった時間、マンションは停電中だったんです。

サイバンカン:
しかし、停電中でも、たしか電話は使えるはずでは‥‥?

アウチ:
はい、そのとおりです。しかし、機種によっては、子機の使用はできないのです。現場で山野さんが手にしたのは、そういうタイプの子機でした。裁判長。念のため、停電の記録を提出します。

証拠品《停電記録》のデータを法廷記録にファイルした。

サイバンカン:
では、弁護人。

ナルホド:
‥‥は、はい!

サイバンカン:
尋問》をおねがいします。

ナルホド:
じ、尋問、ですか‥‥?

チヒロ:
‥‥さあ、なるほどくん。いよいよ本番よ。

ナルホド:
‥‥あの、尋問って、どうすれば‥‥?

チヒロ:
今の証言のウソを暴くのよ、もちろん。

ナルホド:
えっ! ‥‥ウソ、ですか‥‥?

チヒロ:
あなたの依頼人が無実なら‥‥あんな目撃証言なんか、ウソに決まってるでしょう! ‥‥それとも、あなたは依頼人の無実を信じてないの?

ナルホド:
‥‥! でも‥‥どうやって?

チヒロ:
カギをにぎっているのは、《証拠品》よ! あの証人の証言証拠品のデータとの間には、何か決定的な食い違い、すなわち《ムジュン》があるはず。まず、法廷記録証言で、ムジュンしている部分を探すの。そして、ムジュンしている証拠品を見つけたら、それを、あの証人につきつけてやりなさい。

ナルホド:
‥‥は、はあ。

チヒロ:
Rボタンで法廷記録を見ながら、証言と食い違う部分を探して!



尋問開始
〜事件の当日、目撃したこと〜

ヤマノ:
勧誘しておりましたら、とある部屋から、男が出てきたんです。

ヤマノ:
男はあわてていて、ドアを半開きにしたまま、行ってしまいました。

ヤマノ:
おかしいと思いまして、私、部屋をのぞいてみたんでございます。

ヤマノ:
すると、なんと、女の人が死んでいるじゃございませんか!

ヤマノ:
私、腰が抜けてしまいまして。怖くて、部屋に入れませんでした。

ヤマノ:
私、すぐに警察を呼ぼうと思ったんでございます。

ヤマノ:
でも、彼女の部屋の電話は通じませんでしたので、

ヤマノ:
それで、近くの公衆電話から通報いたしました。

ヤマノ:
時間はハッキリ覚えております。お昼すぎの、2時でした。

ヤマノ:
逃げた男は、間違いなく、そこの被告人のカタでございます。

チヒロ:
‥‥証言は、ここまで。この中のどこかに、決定的なムジュンが含まれているはずよ。Rボタンで法廷記録を開いて、それを見ながら証言を聞きなさい。証拠品とムジュンを見つけて、つきつけてやりましょう!



ナルホド:
死体を見つけたのが、2時。間違いありませんか。

ヤマノ:
ええ。2時でしたね。たしかに。

ナルホド:
しかし、それはおかしいんですよ。この解剖記録のデータと、あきらかにムジュンしています。被害者が死んだのは、午後4時より後なんです。2時に死体を見つけられるはずは、ゼッタイにありません! どうして、2時間もズレがあるんでしょうか‥‥?

ヤマノ:
‥‥! え、あの‥‥それは‥‥。

アウチ:

それは、ささいなコトです。単なる記憶ちがいでして‥‥

サイバンカン:
‥‥私には、そうは思えません。山野さん。どうして、死体を見つけた時間を2時だと‥‥?

ヤマノ:
‥‥ええと‥‥その、ど、どうしてでしょうね‥‥。

チヒロ:
みごとなツッコミよ! なるほどくん! そうやって、ムジュンを指摘していけばいいの。ウソは、かならず次のウソを生み出すはず。そのウソをまた見抜いて、あいつを追い詰めましょう!

ヤマノ:
‥‥あっ! そうそう、思い出しました!

サイバンカン:
‥‥では、もう一度《証言》してもらいましょうかな?



証言開始
〜死体を発見した時間について〜

ヤマノ:
死体を見つけたとき、時間が聞こえてきたんでございます。
あの音、時報みたいな感じで‥‥。たぶん、テレビだったと思います。
あ、でも、時報にしては、2時間もズレていたんですよね?
たぶん被害者の方は、ビデオを見ていたのではないでしょうか。
その音を聞いたから、2時だったと思い込んでしまったんでしょうね。
どうも、ごメイワクをおかけいたしました‥‥。


サイバンカン:
‥‥ふむ。なるほど。ビデオで時報の音を聞いた‥‥。では、弁護人。《尋問》をおねがいします。

チヒロ:
なるほどくん。もう、やり方はバッチリよね?

ナルホド:
‥‥まかせてください。



尋問開始
〜死体を発見した時間について〜

ヤマノ:
死体を見つけたとき、時間が聞こえてきたんでございます。

ヤマノ:
あの音、時報みたいな感じで‥‥。たぶん、テレビだったと思います。

ヤマノ:
あ、でも、時報にしては、2時間もズレていたんですよね?

ヤマノ:
たぶん被害者の方は、ビデオを見ていたのではないでしょうか。

ヤマノ:
その音を聞いたから、2時だったと思い込んでしまったんでしょうね。

ヤマノ:
どうも、ごメイワクをおかけいたしました‥‥。

チヒロ:
‥‥さあ、どこかヘンなところはなかったかしら?



ナルホド:
ちょっと待ってください! そもそも、マンション停電だったはずですよね。この記録がそれを証明しています!

ヤマノ:
‥‥!

ナルホド:
テレビにしろ、ビデオにしろ、使えるワケがないじゃないですか!

ヤマノ:
‥‥!! そ‥‥、それは‥‥。

サイバンカン:
‥‥たしかに、そのとおり。山野さん。‥‥どういうことですかな?

ヤマノ:
‥‥いや、私もその、どういうことなのか‥‥。‥‥‥‥‥‥‥‥あっ! そ、そうだ! お、思い出しました!

サイバンカン:
‥‥山野さん。証言は、最初から正確におねがいしますよ。だんだん、あなたという人物があやしく見えてきます。なんか、妙にクネクネしているしねえ。

ヤマノ:
‥‥!! も、もうしわけございません。‥‥でも、なにぶん、死体を見たショックで‥‥。

サイバンカン:
もういい、わかりました。では、さらに《証言》をおねがいしましょう。



証言開始
〜《時間を聞いた》ことについて〜

ヤマノ:
やっぱり、“聞いた”のではなく、“見た”んでした!
現場には、置き時計があったじゃないですか。
ほら、犯人が殴るときに使った凶器ですよ!
おそらく、あれで時間がわかったんだと思います‥‥。


サイバンカン:
時計を見た‥‥。まあ、それなら理解できますね。では、弁護人。《尋問》を。

ナルホド:
わかりました。



尋問開始
〜《時間を聞いた》ことについて〜

ヤマノ:
やっぱり、“聞いた”のではなく、“見た”んでした!

ヤマノ:
現場には、置き時計があったじゃないですか。

ヤマノ:
ほら、犯人が殴るときに使った凶器ですよ!

ヤマノ:
おそらく、あれて時間がわかったんだと思います‥‥。

チヒロ:
‥‥さあ、ムジュンした部分を探しましょう!



ナルホド:
ちょっと待ってください。凶器はこのとおり。“置物”なんですよ。これのどこが時計なんですかッ!

ヤマノ:
うおおおっ! ‥‥あんた、なんなんだ! さっきから、エラそうに。

ナルホド:
山野さん。質問に答えてください。

ヤマノ:
オレ‥‥わ、私は見たんだ。そいつは置き時計なんだよ!

アウチ:
裁判長! ちょっとよろしいですか。

サイバンカン:
どうしましたか? 亜内検事。

アウチ:
この置物は、証人の言うとおり、実は置き時計なんです。首がスイッチになっていまして、時間をアナウンスするタイプです。時計は見えないので、《置物》として提出したんです‥‥。

サイバンカン:
なるほどね‥‥。凶器は、実は《置き時計》だった、と。どうかな? 成歩堂くん。山野さんの証言は間違っていない。これはたしかに、時計なんだから。‥‥山野さんお証言について、もう問題はないかね?

ナルホド:
その置物が時計だと知るためには、実際に手に取るしかありません。しかし、証人は“部屋には入らなかった”と証言している。これは、あきらかにムジュンしています!

サイバンカン:
‥‥ふむう‥‥。たしかに。

ナルホド:
なぜ、証人が時計のことを知っていたか? それは‥‥

ナルホド:
あなたはウソをついている! あなたはあの日、現場の部屋に入ったのです!

ヤマノ:
な、なんだと! し、知らねえぞオレは‥‥

ナルホド:
そうだ! あの置き時計で被害者を殴ったのは、あなただったんだ! 彼女を殴ったときのはずみで、あの時計は鳴った! あなたは、その音を聞いたんです!

サイバンカン:
静粛に! ‥‥おもしろい。成歩堂くん、つづけなさい。

ナルホド:
はい。‥‥山野さん。きっとあなたは、かなり驚いたはずです‥‥。被害者を殴った瞬間、置物が急にしゃべり出したわけですから。その声が、強烈に印象に残ってしまった。だから、あなたは時間だけを妙にハッキリ覚えていたんです!

アウチ:

ど、ど、どういうつもりですか! そ、そんないいかげんな言いがかりは‥‥。

ナルホド:
いいかげんなどうか‥‥、証人の顔を見てください!

ヤマノ:
‥‥う‥‥ぐぐ‥‥

サイバンカン:
証人‥‥。どうなんですか? あなたが殴ったんですか?

ヤマノ:
わ、ワタシは、その‥‥‥‥け、決して‥‥‥‥あの、ワタシが、聞いた、いや、見たのは‥‥うぐぐ‥‥うおおおおおおおおおおおおおっ! うるせえんだよ! 細かいことをぐちぐちと! あ、アイツだ‥‥! オレは見たんだよ‥‥。し、死刑だ! あの男に、死刑を‥‥!

サイバンカン:
静粛に! 静粛に!

アウチ:
裁判長! お、お待ちください! ただ今の弁護人の主張には、証拠のカケラもありません!

サイバンカン:
成歩堂くん!

ナルホド:
はい。

サイバンカン:
証人が聞いたという時報が、この時計の音だったという証拠。そんな証拠は、あるのですか?

ナルホド:
(これは重要な問題だ! よく、考えないとな‥‥)‥‥そうですね。山野さんが聞いたのは、この置き時計の音だったのです。それを証明することは、カンタンだと思います。それは‥‥

ナルホド:
この場で、置き時計を鳴らしてみればいいんですよ。裁判長。 その時計を貸してください。いいですか。‥‥よく、聞いてください。

トケイ:

‥‥ピッ‥‥《おそらく、9時25分だと思う》


サイバンカン:
な、なんか、ヘンなアナウンスをする時計ですね。

ナルホド:
まあ、《考える人》ですから。

サイバンカン:
‥‥で。このアナウンスがどうかしましたか‥‥?

ナルホド:
亜内検事。今、ほんとうは何時ですか?

アウチ:
11時25分‥‥。あっ!

ナルホド:
2時間、遅れているんですよ。この置き時計は‥‥。殺人現場で、山野が聞いた時刻と同じく、ね。さあ、どうですか! 言い逃れできますか、山野さん‥‥?

ヤマノ:
‥‥‥‥‥‥へ‥‥へっ! あんた、1つ見逃してるよ!

ナルホド:
(‥‥え。な、なんのことだ‥‥?)

ヤマノ:
たしかに、その時計は2時間、遅れてるみたいだな。だがな‥‥。その時計が、事件当日にも遅れていたかどうか‥‥その証拠がないかぎり、証明したことにはならねえぜ!

ナルホド:
‥‥‥‥!(‥‥そんなこと、証明できるワケがないじゃないか! クソッ! あと1歩だっていうのに‥‥!)

サイバンカン:
成歩堂くん。‥‥どうやらあなたは、それを証明するのはムリなようですね。

ナルホド:
‥‥! ‥‥は、はい‥‥

サイバンカン:
となると、山野さんの言うとおり、彼を告発することはできません。‥‥ザンネンですが、ね。ではこれにて、山野 星雄氏に対する尋問を、終了します!

ヤマノ:
ヘッ! ヒトがわざわざ証言しに来てやったっていうのに、ハンニン呼ばわりかよ! まったく弁護士ってのは、ヒドい連中だぜ!

ナルホド:
(くそっ! ‥‥山野め! すまない! 矢張‥‥。もう少しだったのに。ぼくにはもう、どうしようもない‥‥)


チヒロ:

待ちなさい!  山野 星雄!


ナルホド:
ち、千尋さん!

チヒロ:
なるほどくん! ダメよ! ここであきらめちゃ! ‥‥考えましょう!

ナルホド:
でも、もうムリだよ千尋さん! 事件があった日に、時計が遅れていたかどうかなんて、今から、証明しようがない!

チヒロ:
そ、‥‥そうね‥‥。じゃあ、いっそのこと発想を逆転させましょう!《あの時計が、事件当日も2時間遅れていたかどうか》‥‥‥‥そう考えるのではなく、そもそも、あの時計が、《なぜ2時間も遅れていたのか?》その理由を考えてみるの! なるほどくん! あの時計がなぜ、2時間遅れていたか、わかる?

サイバンカン:
では、時計が遅れていた理由を示す証拠品を提示してもらいましょう!

ナルホド:
被害者は、事件の前日、帰国したばかりでした。ニューヨークと日本では、14時間の時差があります! 日本で午後4時のとき、向こうは前日の午前2時。時計で見れば、その差はちょうど、2時間になります! 被害者は、帰国後、時計の時差をまだ戻していなかったのです! だから、あなたが聞いた時間は、2時間ズレていたんだ! どうですか! 山野さん!

ヤマノ:
‥‥ぐ。‥‥‥‥‥‥!

サイバンカン:
せ、静粛に! 静粛に!


サイバンカン:
‥‥さて。ここへ来て、状況は一変したと言っていいでしょう。亜内検事。山野 星雄は‥‥?

アウチ:
は、あの‥‥先ほど緊急逮捕いたしました。

サイバンカン:
よろしい。‥‥成歩堂くん。

ナルホド:
はい。

サイバンカン:
‥‥正直なトコロ、驚きました。こんなに早く、依頼人を救い出した上、真犯人まで探し出すとは‥‥。

ナルホド:
ありがとうございます‥‥。

サイバンカン:
とにかく、今となっては形式にすぎませんが、被告人、矢張 政志に判決を言い渡します。

無 罪

サイバンカン:
‥‥では、本日はこれにて閉廷!


ナルホド:
山野という男は、空き巣の常習犯だったらしい。新聞の勧誘をしながら、留守の家を狙っていたという。‥‥あの日。矢張が部屋を訪ねたとき、被害者は留守だった。彼が立ち去った後、山野は“仕事”をするため、部屋に侵入。そして部屋を物色中、被害者が帰ってきたのだ。逆上した山野は、そばにあった置物を手に取って‥‥



8月3日 午後2時32分
地方裁判所 被告人第2控え室

ナルホド:
(‥‥うう、ブジに終わったなんてまだ信じられないよ‥‥)

チヒロ:
なるほどくん! やったわね! おめでとう!

ナルホド:
あ、ありがとうございます! ‥‥ホント、所長のおかげです。

チヒロ:
ううん。そんなことないわ。とにかく私、ひさしぶりにスカッとしたわ!

ナルホド:
(こんなにニコニコしている所長、初めてだ。そうだ! 矢張のヤツもよろこんでるだろうな‥‥)

ヤハリ:
死ぬんだぁ‥‥。

ナルホド:
な、なんでおまえがそんなカオしてるんだよ!

ヤハリ:
成歩堂ぉ‥‥。オレ、そろそろ死ぬからさぁ。

ナルホド:
い、いやいやいや。おまえは無罪になって、事件は終わったんだよ、矢張。

ヤハリ:
‥‥でもよぉ、‥‥美佳は帰ってこないんだよなぁ‥‥。

ナルホド:
(‥‥矢張‥‥)

チヒロ:
おめでとうございます、ヤッパリさん。

ヤハリ:
ヤ、“ヤッパリ”‥‥?

チヒロ:
どうかしましたか? ヤッパリさん。

ヤハリ:
いや、あの。なんつーかその、ホント、ありがとッス。オレ、一生忘れねーから。

チヒロ:
‥‥まあ。

ナルホド:
(おい、助けたのはぼくだぞ‥‥)

ヤハリ:
あ、そうだ。こ、これ、プレゼント! ‥‥受けとってください!

チヒロ:
あら。‥‥私に? あの‥‥。でもそれ、証拠品じゃあ‥‥?

ヤハリ:
実はコレ、オレがあいつのために作ってやった時計なんスよ。あいつのと、オレのとで2個、作ったんス。

チヒロ:
まあ、あなたが作ったの、これ? ‥‥‥‥そうね。‥‥じゃ、記念にいただくわ。

ヤハリ:
‥‥でもよぉ、成歩堂‥‥。オレ、こんなにアイツのこと想っていたのに、あの女にとってオレ‥‥ただのオモチャだったんだよな。すげぇ、カナシイよぉ‥‥。

ナルホド:
矢張‥‥。

チヒロ:
‥‥‥‥私、そうは思わないけど。

ヤハリ:
‥‥え?

チヒロ:
彼女は彼女なりに、あなたのことを想っていたはずですよ。

ヤハリ:
ハッ! ‥‥な、なぐさめなんて‥‥。

チヒロ:
あら、それはどうかしら。ねえ、なるほどくん?‥‥わからず屋の彼に、彼女の気持ちがわかる証拠を見せてあげて。

ナルホド:
は、はい? ‥‥あ、そ、そうですね。(い、いきなり言われてもなあ‥‥)


チヒロ:
‥‥なるほどくん。証拠品って、こういうものよ。見る角度によって、その意味合いはどうにでも変わってしまうわ‥‥。人間だって、そう。被告人が“有罪”か“無罪”か? 私たちには、知りようがない。弁護士にできるのは、彼らを信じることだけ。そして彼らを信じるということは、自分を信じるということなの。‥‥なるほどくん。強くなりなさい。‥‥もっと。自分が信じたものは最後まで、あきらめてはダメ。


チヒロ:
‥‥じゃあ、私たちも帰りましょうか。

ナルホド:
そうですね。

チヒロ:
今夜は私、パーッとごちそうしちゃおうかな。ヤッパリさんの無罪をお祝いしましょう!

ナルホド:
‥‥はいっ!

チヒロ:
あ、そうだ。‥‥ヤッパリさんといえば、あなた、彼のおかげで弁護士になった、って言ってたわよね。

ナルホド:
え、は、はあ。‥‥“ある意味”ですけど。

チヒロ:
今度、聞かせてね、その話。‥‥ものすごく興味があるの。


ナルホド:
‥‥こうして、ぼくの最初の事件は幕を閉じた。矢張のヤツ“トモダチはいいなあ”を連呼しつつも、あの《考える人》の時計以外に、依頼料を払う気はないようだ。‥‥‥‥‥‥そして、あの時計は、再び、とんでもない事件を引き起こすことになり、“矢張のことを話す”というぼくの約束は、永久に果たされることはなかった。

おわり